工場建設で失敗しないために注意すべき4つのポイント
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一級建築士 / 一級建築施工管理技士
- 宮前 聡志
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工場建設は企業にとって、もっとも大きな投資のひとつです。工場を一棟建てるためには、多くのお金、時間、人を費やす必要があり、長く利用していくためにも失敗はできません。工場建設の際に陥りがちな落とし穴を知っておくことは非常に重要です。この記事では、工場建設で失敗しないために注意すべきポイントを4つにまとめて紹介します。
予算
予算において、もっとも重視すべきことは、イニシャルコストとランニングコストのバランスです。イニシャルコストは初期費用のことで、設計費や建設工事費のほかに、機械やシステムなど設備にかかる費用がこれにあたります。ランニングコストは施工後に必要な水道光熱費やメンテナンス費など、工場を運用するためにかかる費用です。
イニシャルコストをおさえて建物のグレードを下げた結果、断熱や防湿が行き届かず、ランニングコストがかさむ場合があります。また、安さにつられて依頼した建設会社で、設計段階の検討が足りずに工場の動線や設備のオペレーションが悪く、さらなる改良が必要になったケースもあります。
「いずれ生産量を上げるから」と先を見越して、工場は大きめに作る傾向がありますが、工場の規模が大きくなるほど、光熱費や水道料金はかさみます。食品工場の場合は大型の冷蔵庫を導入すれば、それに応じた電気料がかかります。イニシャルコストだけでなくランニングコストを念頭に、工場や設備の規模やスペックが合っているのか、しっかり考える必要があります。
「安かろう悪かろう」という言葉があるように、価格設定には必ず理由があります。なぜ安いのか、なぜ高いのか、見積もりをしっかり比較・検討することも大切なポイントです。
工場建設における見積もりの注意点を知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
納期
工場建設のための計画立案は本来、時間がかかるものです。地盤調査や構造計算を行い、インフラ計画や導入の機械を検討し、それらを踏まえてコストを算出します。さらに法規制の許認可申請なども含めれば、着工までに数カ月から1年を要する場合もあります。
しかし、工場稼働に必要な日数を踏まえると、建設のための時間は限られ、さらに補助金を使う場合は工期が定まり、スケジュールはタイトになりがちです。効率的なスケジュール管理には、しっかりとした基本計画が欠かせません。
基本計画では、建設会社が施主からの要望や諸条件をもとに設計条件をまとめ、行政機関へ確認して法的環境を整え、概算見積を計算します。このとき、諸条件が明確なほど見積もりの精度は上がりますが、時間が限られて必要な情報が集められないと、不確定要素に対応するため見積もりは高くなりがちです。
予算を超過すれば計画の見直しを迫られることになり、実際、施主が納期を遅らせたケースもあります。また、不確定要素が多すぎたために最終見積でもおさまらず、追加工事金額が発生する例もあります。
計画立案には時間がかかることを念頭に置きながら、設計者、施工者とコミュニケーションを図り、綿密な基本計画を立てましょう。
工場建設の工期について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
安全性
工場に限らず、建物を建てる際には建築基準法を遵守する必要があります。建築基準法は人々の命や財産を守るために、建築物の敷地、構造、設備や用途に関する最低基準を定めたものです。
基本計画の際に諸条件を整理して、行政機関への申請を行い、お墨付きを得たうえで着工となります。適合しない場合は違法建築物と見なされ、工事の停止や、建物の除却や修繕などを求められます。
こうして担保される安全性とは別に気をつけたいのは、工場稼働後に潜むリスクです。
たとえば、とある食品工場の2階に据付型の急速冷凍機を設置したところ、壁や床に冷気が伝わり、室温との温度差で1階の天井裏に結露が発生し、水浸しになるケースがありました。発覚が遅れれば、電気配線からの漏電による火災、落下する水滴による食品汚染など、人命に関わる事態にもなり兼ねます。
安全性への配慮を欠かさぬことは、品質を向上させることにつながります。いかにリスクを予見するか。それは工場建設時だけでなく、むしろ稼働後に必要なことといえるでしょう。
工場の安全性について、より詳しく知りたい方は「事故やトラブルを防ぐ、工場の安全対策とは?」の記事もご覧ください。
機能
業種や扱う製品によって、工場の機能は千差万別です。より機能的な工場を建てるためには、建設会社が施主の事業への理解を深めることが重要です。
しかし、施主の理解が及んでいない場合もあります。たとえば、HACCPに沿った衛生管理が必要な食品工場が挙げられます。HACCPを十分に理解していない建設会社は意外に多く、無駄な空間を構成するなど不必要なコストをかけてしまうケースがあります。専門性が必要な工場建設の場合は、実績のある会社を選ぶべきでしょう。
また、大手自動車メーカーの部品工場のように、ライン構築など機能面の一切を施主が把握している場合は、建設会社の選定は価格が決定要因になるでしょう。
上記のどちらでもない多くの工場建設の場合、施主と建設会社、それぞれが持つ情報の非対称性を理解して、共通認識をもったうえでプロジェクトに臨むことが大切です。
この際、「自分たちの事業をよく理解してくれる」「働く人の身になって考えてくれる」と思える建設会社なら、施主の求める機能をよく理解して図面に落とし込むだけでなく、課題解決や環境改善にまでつながる提案をしてくれるはずです。
つまるところ、施主に寄り添ってくれる建設会社を選ぶことが大事といえます。
まとめ
工場建設で失敗しないために注意すべき4つのポイントを挙げましたが、施主と建設会社とのコミュニケーションが図れていることが前提といえます。互いの情報差をなくして「わかってくれる」関係性を築くこと。そもそも「わかり合いたい」と思える建設会社を選ぶことが大切です。
- 執筆者
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一級建築士 / 一級建築施工管理技士
- 宮前 聡志
営業企画課課長。工場管理経験と設計業務を経験し、2018年にSAWAMURAに建設プロデューサーとして入社。現場・設計・営業を知るオールラウンダー。
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