木造建築の良さを生かした大型の木造耐火建築物を建てる
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一級建築士
- 南 勇次
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事務所や共同住宅、高齢者福祉施設、幼稚園など、大型の木造建築が増えています。木造の良さを生かし、大きな空間をつくることを実現する、大型木造耐火建築について紹介します。
木造大型建築物が増えているわけ
日本は国土の2/3を森林が占める森林大国です。当然のことながら、古くから木造の建物が多く建てられ、国宝級の大型木造建築物が今も残っています。しかし、戦争や災害で多くの木造建築が焼失した経験を踏まえて、1950年に制定された建築基準法で大型木造建築を禁止しました。
以来、大型建築物では鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造 (RC造)が主流となりました。一方で木材輸入の自由化もあって国産材の需要は限られ、戦後に植樹した木は活用されずに山は荒れ、森林と木材を生かす技術が廃れつつありました。
しかし、2000年の「建築基準法改正」、2010年の「公共建築物等木材利用促進法」によって、これまで地方都市に限られていた大型の木造建築が都市部でも建設可能になりました。東京オリンピックでは木造の施設がアピールされ、各地でも大型の木造建築物が造られています。
建築基準法が求める防火措置
建築基準法では、人命と財産の確保のため、建築物の防火規制を定めて、次のような制限や設置義務を設けています。木造建築であっても、これらの制限や義務を守る必要があります。
- 主要構造の制限|建物の用途、規模、立地に応じて主要構造部に一定性能を要求
- 建物外殻の制限|延焼の恐れのある屋根、外壁などの一定性能を要求
- 内装材の制限 |火災の拡大と有毒煙・ガス発生源となる材料を制限
- 防火区画の設置|火災の規模を限定するための区画を要求
- 避難施設の設置|避難通路、排煙設備、非常用照明装置を設置義務
- 消化活動の支援|非常用の新入口・エレベーター、敷地内通路の設置義務
詳しくは「建築基準法制度概要集」をご覧ください。
耐火建築物と準耐火建築物
2019年に改正された建築基準法で、従来は耐火建築物でしか設計できなかった建物が、消火や避難に関して適切な措置を行うことで準耐火建築物として設計できるようになりました。2022年6月公布の改正基準法で、さらに防・耐火性能を有する木造建築物が計画しやすくなりました。
木造建築物の防耐火性能は、耐火建築物と準耐火建築物に大別されます。
耐火建築物とは、主要構造部を耐火構造とすることで、火災が終了するまで建物の崩壊と延焼を防ぐことが求められます。準耐火建築物とは、主要構造部を準耐火構造とすることで、火災による延焼をおさえることが求められます。
木材は火熱を加えなくなった後でも燃焼が続く恐れがあるため、耐火建築物では主要構造部を耐火被覆で連続的に覆う必要があります。準耐火建築物では、柱や梁に「燃えしろ設計」を用いて「木材現わし」とすることが可能です。
燃えしろ設計は、木材の表面が一定の寸法で燃えても構造耐力上、支障のないことを確認する設計法。木材現わしは、木材を見えるように使用すること。木材の質感や調湿機能、健康増進機能など、木造建築の魅力が発揮されます。
木造で耐火・準耐火建築物は建てるには
木造で「1時間耐火構造」あるいは「2時間耐火構造」の建築物を建てるには、一般社団法人「日本木造住宅産業協会(略称は木住協)」が取得している国土交通大臣認定工法の仕様を利用する方法があります。
設計者と施工者は木住協主催の講習を受講する必要があり、講習修了登録者からの申請に応じて、設計・施工、確認申請に活用できる書類一式が物件1棟ごとに発行されます。
詳しくは木住協の「耐火・準耐火構造」をご覧ください。
準耐火構造については国土交通省告示仕様で建築が可能です。
詳しくは「準耐火構造の構造方法を定める件」をご覧ください。
そのほかにも、耐火性能検証法と防火区画検証法で建築主事が判断する場合、または国土交通大臣認定のより高度な検証法で大臣指定の性能評価機関が判断する場合などが別途規定されています。
まとめ
木造耐火建築物には、S造やRC造と比較して次のようなメリットがあります。
- 建物を軽量化でき、大規模な基礎工事が必要ない
- 鉄骨や鉄筋コンクリートの専門職は不要で、作業工程が簡略化される
- 重機やクレーンの入れられない敷地でも人力による建て方が可能
- 結果的にコストを削減し、工期が短縮される
デメリットは次のようなことが挙げられます。
- 木造耐火の告示仕様や大臣認定仕様の確認に手間取る
- 被覆材の石こうボードが重く、扱いに苦労する
- 納まりが複雑化する場合がある
そもそも木造建築の良さは、私たちのよく知るところです。
- 手触りが良く、クッション性があって足腰に負担がない
- 木の香りが良く、調湿作用がある
- やわらかな雰囲気で、周囲の環境と調和する
- 地域産材を活用することができる
こうした特性が生かされることと、コストと工期を縮小できることが、大型木造建築物を建てる何よりのメリットといえるでしょう。
- 執筆者
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一級建築士
- 南 勇次
組織設計事務所にて官公庁案件を主とした設計監理業務を経験し、2021年にSAWAMURAの設計課へ入社。地域材を活用した中大規模木造の設計を勉強中。
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