近年、企業や組織が従業員の幸福と健康を重視する「ウェルビーイング経営」が注目を集めています。
従業員の心身の健康をサポートし、組織の繁栄と成果を追求するための独自の経営手法です。ウェルビーイング経営を行うことで従業員や企業全体にさまざまなメリットをもたらすとされています。
本記事では、ウェルビーイング経営の概要やメリットについて解説し、具体的な取り組み例を紹介します。
ウェルビーイング経営とは？
「ウェルビーイング」とは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味します。
この概念に則った「ウェルビーイング経営」は、従業員の幸福や健康を重視し、組織全体の繁栄と成果を追求する経営手法です。従業員のウェルビーイングを向上させることで、生産性の向上や従業員のエンゲージメント向上だけでなく、組織全体の成果にも貢献する経営手法として注目されています。
ウェルビーイング経営が注目された背景
価値観や労働環境の変化
近年のグローバル化やデジタル化の進展によって、働き方や労働条件が多様化してきました。その一方で、長時間労働や仕事とプライベートのバランスの問題が浮き彫りになり、従業員の健康や幸福への関心が高まっていきました。
従業員一人ひとりが、自ら望む生き方に沿った豊かで健康的な職業人生を安心して送れる——そのような社会を築いていくことが重要だとして、ウェルビーイング経営の取り組みにつながりました。
持続可能な開発目標（SDGs）への関心の高まり
SDGsは2030年までに貧困の撲滅や、地球環境の保全など、持続可能な社会の実現を目指す国際的な目標です。
SDGsの取り組みの中の「Goal 3: 良好な健康と福祉の確保」は、従業員の健康と幸福感を重視する取り組みであり、ウェルビーイング経営と大きく関係しています。
SDGsの普及により、企業や組織は、持続可能な社会目標に貢献することの重要性を認識し、ウェルビーイング経営を通じて、社会的な影響を持つことに関心を寄せるようになりました。
ウェルビーイング経営に必要な5つの要素
ポジティブ心理学の父として知られる心理学者、マーティン・セリグマン（Martin Seligman）は、幸福を5つの要素に分け、それを「PERMAモデル」として提唱しました。
PERMAモデルはウェルビーイングを構成する要素を包括的に捉え、それぞれの要素が相互に関連しながら幸福感や満足感を形成する枠組みとして活用されます。
1.Positive Emotions（ポジティブな感情）
ポジティブな感情の経験がウェルビーイングにつながります。希望、興味、喜び、愛、思いやり、誇り、娯楽、感謝などの感情の体験が重要です。
2.Engagement（物事への積極的な関わり）
エンゲージメントは、自分自身に没頭し、興味深い活動や仕事に集中する状態を指します。「フロー体験」とも呼ばれ、能力とチャレンジのバランスが取れた状態で、時間の感覚がなくなるような集中状態になる状態のことです。
3.Relationships（他者との良好な関係性）
家族、友人、パートナー、同僚、上司などとの良好な関係性や支え合い、社会的なつながりが、幸福感や心理的な健康に貢献するとされています。
4.Meaning（意義の自覚）
人々には生きる意味や意義を持つことが重要です。仕事や活動が自己成長や社会貢献に繋がる意味を持つことで、ウェルビーイングを高めることができます。
5.Accomplishment（達成感）
達成感はウェルビーイングにおいて重要な要素です。目標達成や成功体験、成果を出すことで得られる達成感が人々の幸福感を高めます。
ウェルビーイング経営がもたらすメリット
従業員のモチベーションや生産性の向上
ウェルビーイング経営によって、従業員の精神的・身体的に健康でバランスの取れた状態にあると、仕事に対する高いモチベーションにつながります。その結果、生産性が向上し、企業の目標達成に寄与します。
離職率の低下と新たな人材の確保
従業員が働きがいを感じ、健康や幸福感を実感できる環境が整っていると、離職率や転職率が減少します。また、ウェルビーイング経営を実践している企業は、従業員の幸福度や働きやすさに関心を示している企業として、ブランドイメージの向上にもつながり、採用活動において競争力を高め、優秀な人材の確保にもつながるでしょう。
ウェルビーイング経営の取り組みの一例
健康増進のサポート
従業員がストレスなく仕事に集中できる心身の健康を整えるための取り組みが必要です。
健康診断の実施、予防接種、メンタルヘルス研修、フィットネスクラスやウェルネスイベントの開催、栄養指導やストレス管理のトレーニングなどが含まれます。
柔軟な働き方のサポート
従業員が柔軟な働き方ができる環境を整備し、ワークライフバランスを重視した働き方が重要です。
リモートワークやフレックスタイム制度の導入、育児支援や介護支援の提供などがその一例です。
コミュニケーションの活性化
自由に意見を言い合える風通しの良い環境は、コミュニケーションの活性化に効果的です。
社内交流イベントの開催、従業員の声を反映させるフィードバックシステムの導入などがその一例です。また、手軽にコミュニケーションが取れるチャットツールなども有効です。
スキル開発のサポート
従業員のスキルや能力の向上の機会をサポートすることも大切です。
定期的な研修プログラムの実施やオンラインのラーニングプラットフォームを導入することで、従業員は新しいスキルや業務知識を習得し、自己成長を促進することができます。
まとめ
PERMAモデルに沿ってウェルビーイングを推進することで、組織全体が活性化し、従業員の幸福度が高まります。
製造業においては、ウェルビーイングの実現には工場の設備面での工夫が非常に重要です。安全性の徹底はもちろんのこと、空調や照明の配慮、コミュニケーションが活発になる休憩スペースの設置など、さまざまな要素がウェルビーイング経営に貢献できます。
近年、製造業においては人手不足も懸念されています。ウェルビーイング経営に取り組み、従業員にとって心身の健康と働きがいのある職場環境を実現し、企業の成長につなげてみてはいかがでしょうか。
