WELL認証とは?基本情報やメリット、評価項目について解説
-
一級建築士 / 一級建築施工管理技士
- 宮前 聡志
- コピーしました
- この記事を印刷する
- メールで記事をシェア
WELL認証とは
WELL認証とは、米国の国際ウェルビーイング協会が策定した、人々の健康とウェルビーイング(心身の健康や幸福感、生活の充実感、社会的なつながりや意義のある人生など、人々が満たされた状態にあること)を促進するための国際的な認証制度です。
建築物の設計、施工、管理、運営の各段階で、空気品質、水質、栄養、光環境、音環境、運動、心理的健康、社会的健康、地域社会との連携、そしてイノベーションについて、さまざまな評価基準を設け、基準を満たした建築物に認証が与えられます。
認証には環境工学の観点だけでなく、医学の見地からも検証が加えられ、人々の健康とウィルビーイングをサポートする建築物や都市の環境を評価します。
WELL認証の制度が生まれた背景
現代の社会では働く人々の健康を重視する企業が増え、次のようなことが求められています。
- 「働き方改革」などの取り組みによって、社員の心身の健康に配慮しながら、生産性を高めていく健康経営の導入が期待されること。
- 人は生涯の90%の時間を屋内空間で過ごすことや、ビジネスの運用コストの90%が人件費であることから、健康と生産性を向上させる屋内空間の要請が高まっていること。
- 「ESG投資」の世界的な潮流により健康性能の高い建築の不動産価値向上への期待から、目に見えない価値を評価する指標の必要性があること。
以上のことから人々の健康や快適な空間を客観的に評価する建物認証制度の必要性が高まり、WELL認証制度の制定につながりました。
健康経営や働き方改革などを目指すプロジェクトにとっては、その目指すべき方向性や達成度をグローバルな指標で評価できることから、国内でも大きな関心が集まっています。
WELL認証の評価項目
WELL認証は、建築物を通じて人々の健康をサポートし、向上させるための10のコンセプトで構成されています。
1.空気
- 建物内の空気の品質を重視し、健康的な居住環境が確保されているかが求められます。
- 空気中の二酸化炭素濃度、換気システム、空気のろ過システムなどが評価されます。
2.水
- 建物内の水質が高く、健康的な生活環境が確保されていることが求められます。
- 飲料水の水質、浄水器の有無、水のフィルタリングシステムなどが評価されます。
3.食物(栄養)
- 建物内の食事環境が健康的であることが求められます。
- 建物内の食品・飲料の提供、栄養バランスのとれたメニューの提供、健康的な食生活を促進するプログラムの実施などが評価されます。
4.光
- 建物内の照明環境が快適で健康的であることが求められます。
- 自然光の取り込み、人工照明の質、調光システムの有無、適切な照明レベルの確保などが評価されます。
5.運動
- 健康的な生活習慣を促進するために、運動が容易にできるような環境づくりが求められます。
- 運動に適した場所や施設、アクセスのしやすさなどが評価されます。
6.温熱快適性
- 建物内での適切な温度や湿度、照明や騒音レベルなど、人々が快適に過ごすための条件を満たしていることが求められます。
- 建物の設備や装置が快適性を損なわないように管理されているかどうかを評価します。
7.音
- 建物内の音環境が快適で健康に配慮されているかが求められます。
- 外部からの騒音の防止、室内の音響設備の適切な設置、音のレベルの確保などが評価されます。
8.材料
- 建材や家具などの素材が人体に有害な物質を含まず、安全で持続可能な素材が使用されているかどうかが評価されます。
- 環境に配慮した素材の使用やリサイクルにも注目されます。
9.こころ
- 心理的な健康と幸福感を促進するために、ストレス管理や精神的な健康のサポートを提供することが求められます。
- 職場での相互交流や社会的な関係の促進なども、心の健康に関する評価要素となります。
10.コミュニティ
- 建物の周辺環境との関係や、建物が社会に与える影響について評価します。
- 地域への社会貢献や環境への取り組みなどが、コミュニティの評価要素となります。また、建物と地域社会との繋がりを促進するような取り組みも重要です。
WELL認証の取得基準
WELL認証の取得には、先ほど述べた10の項目に関する必須項目と追加項目が設けられています。まず、すべての必須項目の要件を満たす必要があり、さらに加点項目の点数に応じてBronze、Silver、Gold、Platinumの4つのレベルに分けられます。追加項目の点数が高くなると認証レベルも高くなります。
- Bronze:必須条件の達成と、評価ポイントの40-49%を獲得
- Silver: 必須要件の達成と、評価ポイントの50-59%を獲得
- Gold: 必須要件の達成と、評価ポイントの60-79%を獲得
- Platinum: 必須要件の達成と、評価ポイントの80%以上を獲得
審査には必須・加点項目を満たしていることを示す書類審査のほか、現地にて空気質・水質・光・音・温熱感指標などの環境測定を行い、要件を満たす必要があります。また、認証取得後にも継続的に建物や都市の環境の維持を求めています。
WELL認証の有効期限は3年間で、継続には再認証が必要になります。
WELL認証を取得するメリット
WELL認証を取得するメリットとして以下のようなものがあります。
企業のブランディングにつながる
働き方改革やESG投資のほか、WELL認証の評価項目はSDGsの17項目のうち16項目に関係しています。従業員の健康やSDGsへの取り組みが国際認証であるWELL認証によって可視化されることで、企業のブランディングにつながります。
生産性の向上が見込める
WELL認証を取得した企業では、健康的で快適な職場環境が整備されているため、従業員の健康面やストレス軽減にもつながります。そのため、従業員が健康で働きやすい環境のもとで集中して業務を行うことができ、生産性の向上が見込めます。
優秀な人材の獲得や離職率の低下につながる
ウェルビーイングに配慮した建物は、従業員にとって心地よい職場環境を提供することができるため、優秀な人材の獲得や、離職率の低下にもつながります。
女性従業員に配慮した工場運営の重要性と、具体的な取り組みについては「女性が働きやすい工場運営とは?」の記事もご参考ください。
まとめ
WELL認証を取得することで、社員の健康や生産性の向上、優秀な人材の獲得や離職率の低下など、さまざまなメリットが得られるとされています。
近年の労働人口の減少にともない、工場における従業員不足も懸念されています。
従業員がやりがいをもって働く環境を実現するためにも、WELL認証に準拠した工場建設によって、環境や健康に配慮することが大切です。
- 執筆者
-
-
一級建築士 / 一級建築施工管理技士
- 宮前 聡志
営業企画課課長。工場管理経験と設計業務を経験し、2018年にSAWAMURAに建設プロデューサーとして入社。現場・設計・営業を知るオールラウンダー。
-
- コピーしました
- この記事を印刷する
- メールで記事をシェア