第4回となる食品工場セミナー「食品微生物検査支援会社と建設会社が工場見学に行って提案する改善案とは?」を開催しました。
本セミナーでは、食品微生物検査の専門家である日本細菌検査株式会社・高橋部長と、食品工場の建設・改修を多く手がける澤村の鈴木が登壇。実際の工場見学事例で挙がった課題に対し、「運用(ソフト)」と「建設・設備(ハード)」の両面から、具体的な改善策を徹底解説しました。
本レポートでは、セミナー内で取り上げた実際の改善事例と質疑応答の内容をご紹介します。
セミナーでは、実際の工場(水産、食肉など)で見つかった課題に対し、食品衛生の専門家・食品工場建設の専門家それぞれの視点から解決策を提示しました。
加工施設内に排水処理槽(グリストラップ)があり、そ類や害虫が侵入するリスクがある。
室内に排水処理槽がある場合は、そ類・害虫を寄せ付けないためにも、日常清掃の徹底が必須です。
排水溝の一部に目皿やHACCP対応の排水桝を設置し、そ類の侵入を防ぎます。
原料や製品が床に近い位置に置かれ、水跳ねによる汚染リスクがある。
「床への直置き厳禁」を徹底します。理想は床から60cm以上の高さを確保し、専用カートや台車で定位置管理を行います。また、床清掃では色分けブラシの使用や発泡洗浄機が効果的です。
床に水が溜まりやすく、菌の増殖や転倒リスクを招く。
キーワードは「ドライ運用」です。スクイージー(水切り)やウェットバキュームを使い、水を強制的に除去します。
また、ブラシ洗浄や高圧洗浄は水飛沫による二次汚染リスクがあるため避け、吸引タイプの自動床洗浄機が有効です。
水が溜まらないよう、速乾性が高い塗り床材の選定や水勾配(傾斜)の設計が重要です。排水溝に自然に水が流れるようにし、必要に応じて排水溝の増設を検討します。
ホースが床に接触している、横向きの配管に埃が溜まるなど衛生リスクがある。
特に横向きの配管では埃が溜まりやすいため、配管の形状に合わせて曲がる専用ブラシを使用し、裏側まで清掃します。天井付近の結露や汚れには、伸縮ハンドルのついた高所用スクイージーの活用で安全な清掃が可能です。
新築時の場合は、給水管を可能な限り天井裏に配管することで清掃の手間を削減できます。また 自動巻き取りリール付きのホース(天吊り型)を導入することで、ホースが地面に接触するのを防ぎます。
配管を変更できない改修時の場合は、既存の壁にステンレス製のフックを取り付け、ホースを高い位置にかけて地面に接触させないようにする管理法が有効です。フックを設置する際は、ビス穴にコーキング(防水処理)を施すことで錆の発生を防ぐことができます。
まな板が放置され、箱が床置きされるなど、手洗い器周辺が雑然としている。
根本的な解決策は整理整頓であり、改善の第一歩は必要なものを明確にし、明確な置き場所を定めることです。専用の保管庫や棚を準備し、洗ったものをすぐに定位置に戻すルールと道具をセットで運用することが重要です。
外部着替えと内部着替えの場所が同一で、外部からの菌持ち込みリスクがある。
長靴の底が見えるように保管して乾燥を促すことや、エプロン同士が触れないよう間隔を空けて吊るすことがポイントです。最近では、AIを活用して正しい手洗いができているかを判定・記録する「手洗いモニター」の導入も進んでいます。
また、全身を映せる鏡を設置し、作業員が身だしなみ(髪の毛、服の汚れなど)をセルフチェックする習慣づけを行うことも重要です。
サニタリーは衛生管理の要であり、ゾーニングが鍵となります。汚染区から清潔区への移動において、サニタリーを中心に各所へ移動できる動線にすることで、履き替えや清掃が容易になります。
またエアシャワーの設置や、手洗いにかかる滞留時間を考慮したシンクの数、洗剤保管庫の位置まで考慮して計画することが重要です。
壁・天井の老朽化や防水性の低い材質により残留物が溜まり、カビが発生。
カビがすでに発生している場合は運用改善だけでは限界があるため、ハード面での見直しが必要となります。
食品工場では、製造を完全に停止して改修工事を行うことが難しいケースが多くあります。
上記の改修事例では、賞味期限の長い製品を製造していたため、必要数量を事前にストックし、製造ラインを一時停止して改修工事を実施する方式を採用しました。
この工程を1週間単位で繰り返すことで、操業への影響を最小限に抑えながら工事を進めることができました。
本ウェビナーでは、食品微生物検査会社の視点(ソフト)と、工場建設会社の視点(ハード)を統合し、実際の工場見学で見つかった課題に対して、具体的な改善策を紹介しました。
食品衛生に取り組むうえでは、日々の清掃や整理整頓といった運用(ソフト)の徹底に加え、建物や設備そのものを見直す建設・設備(ハード)の視点を持つことが欠かせません。
この2つの視点をバランスよく取り入れながら、継続的に衛生レベルを高め、より安全で衛生的な食品工場運営を実現していきましょう。
A. 物理的な隔壁によるゾーニングと、床をドライに保つための排水設計が基本です(ハード)。また、空調管理で結露を防ぐことや、意外な持ち込み源となる「プラスチックパレットの傷」の洗浄・管理も重要です(ソフト)。
A. カビ抑制のターゲットは、室温20℃から25℃くらい、湿度は50%以下に抑えることです。夏場は通常のエアコンでは湿度が下がりにくいため、デシカルト式除湿機などの導入が有効です。また、建物の断熱性能強化として、屋根に遮熱塗料やダブル屋根を導入することも有効です。
A. 根本原因は高湿度と壁・天井の表面温度の低下です。新築時は清潔区域を陽圧とし、給排気バランスを整える設計が重要です。既存工場では、空調設備の熱負荷量を再計算し、必要に応じて除湿機の導入や更新を検討します。局所の結露には、断熱補強が不可欠です。
A. 潜在的な課題(効率性など)は、作業効率アップなどが可視化された改善事例を紹介して共通認識化を図ります。工事は、閑散期を利用したり、製品をストックして操業と休止を繰り返す方法でなるべく生産に影響が出ない形で提案します。工場オーナー様との対話と妥協点の模索が成功の鍵となります。
A. 工場稼働中は常に埃や汚れが舞うため、汚れを堆積させないためには日々清掃するのが理想です。毎日が難しければ、2日に1回や週に何回など、清掃をルール化して行うことが推奨されます。
当日のセミナーは動画でもご視聴いただけます。以下のフォームよりダウンロードしてご覧ください。