セミナーレポート

【セミナーレポート】食品微生物検査支援会社と建設会社が工場見学に行って気づく衛生管理

作成者: 鈴木 戒|2025.10.24

本記事は9/30(火)に食品工場を運営している事業者向けに行われたセミナーのレポートです。

今回のセミナーでは、食品微生物検査・食品衛生・食品添加物を専門とする日本細菌検査株式会社の高橋部長をお招きし、澤村 JHTC HACCP上級コーディネーター鈴木と食品工場の衛生管理についてお話ししました。

食品工場内の衛生リスクと管理のポイント

工場建設会社の視点(ハード面)と菌検査会社の視点(ソフト面)から、実際の工場見学事例をもとに、衛生管理のポイントを解説しました。

事例1:排水設備の配置

衛生上のリスク

場内の増築を繰り返した結果、室内にグリーストラップ(排水処理槽)が置かれている事例です。グリーストラップはネズミや害虫の侵入経路となる可能性があります。ネズミや害虫は、一般菌、大腸菌、サルモネラ菌などの病原菌を媒介する可能性が非常に高いです。

対策

グリーストラップは屋外に設置することが原則として望ましいです。発生原因を室内に作らないことが重要です。

事例 2:跳ね返り水のリスク

衛生上のリスク

原料や製品が直接床に置かれている事例です。
毎日清掃していたとしても、床面には一定の菌(大腸菌群など)が常に存在しており、微生物繁殖源となりやすいです。清掃時や作業中に使用する水が床面の菌を巻き上げたり跳ね返ったりすることで、製品への汚染につながるおそれもあります。

対策

 

製品は床から離れた場所に置く必要があります。上記の画像の事例は、原料や製品を床から60cm以上離したコンテナに入れて受け渡しを行っています。
実際に床の水が跳ねる高さは、状況によっては1メートルを超えるケースもあるため、 実際に水を跳ねさせる状況を作って確認し、その結果に基づいてコンテナの高さを調整することが重要です。

事例 3:ウェットな床環境の管理

衛生上のリスク

水産加工業のように水を大量に使用する工場では、床面に水が溜まることが多く、床面が常にウェットな状態になりがちです。これは菌の繁殖に加え、従業員の転倒リスクという労働安全上の問題にもつながります。
ウェットな状態では、衛生指標菌や大腸菌はもちろんのこと、乳酸菌が増殖しやすくなります。乳酸菌自体は病原菌ではありませんが、食品の品質劣化(ネト、膨張)の原因となり、製品回収事故につながる事例も近年増加しています。

対策

稼働を停止して床勾配を直すことが難しい既存工場では、ワイパーや吸収性の良いモップのほか、乾燥用の掃除機(ケルヒャーなど)を使って強制的に水を吸引・除去することが、労働安全と衛生管理の両面で必須の対策となります。

事例 4:配管と清掃(埃の蓄積)

 

上記の事例は、床清掃用ホースがフックにかけられ、地面に接触しないようにまとめられていました。配管も天井から縦に配管されており、埃が溜まりにくい構造になっています。

衛生上のリスク

一方で、製造区域内に横向きの配管(横管)が出ている場合は、配管上部に埃が溜まり、菌の栄養源となるリスクがあります。特に高い位置にあると目につかず、清掃が困難になります。

対策

高所清掃用のブラシなどを活用し、定期的に清掃するのはもちろん、横管の下には極力物を置かないようにすることが重要です。

事例 5:サニタリーの運用

衛生上のリスク

手洗い機の周辺が整理されておらず、運搬箱が直接地面に置かれ、洗剤なども定位置に保管されていない状況が見られる事例です。

この状況では、交差汚染リスクが非常に高まり、洗剤などの食品への混入事故リスクも高まります。

対策

 

上記の画像の事例は、手洗い機周辺が整理され、まな板を縦に収納する仕様になっていました。また、壁には衛生管理の手順書を掲示しています。

手順書を掲示している場合も「なぜそのルールが必要なのか」という従業員への教育(衛生意識の向上)も運用において忘れてはならないことです。

事例 6:更衣室の管理

 

衛生上のリスク

外部着替えと内部着替えが同室にある事例です。外履きと作業靴が接触すると、外部の菌を工場内に持ち込む可能性があります。

対策

外部の履物と内部の作業着が接触しないよう、同線の変更や物理的な空間分離を行うことが重要です。

 

 

上記の画像の事例では、外履き→内履き→長靴のように段階的に履き替える運用や、長靴の裏をブラシで洗浄できる洗い場が設置されていました。

さらに、長靴は洗うだけでなく、洗った後にしっかり乾かすことも重要です。

衛生意識を高めるため、長靴の靴底が見えるように上向きで収納するタイプの保管庫も近年増えてきています。

まとめ

食品工場には常に菌が存在します。「どこに・どんな菌が・どのようなリスクをもたらすのか」を正しく理解することが、衛生作業手順(SSOP)の徹底につながります。

また、新築工場では設計段階から衛生的な構造を導入できますが、既存工場の場合は稼働を停止して工事を行うことが難しいケースも多いです。その場合は日々の運用方法の工夫や改善によってリスクを最小限に抑えることも可能です。

 

ハードとソフトの両面から現場に即した改善を積み重ねることが、安全で信頼される食品工場づくりの鍵です。

セミナー内でいただいたご質問への回答

Q. 食品工場で見逃しがちな衛生管理の必須箇所は?

A. 手洗い機の数が不足していると、手洗いが形骸化しやすくなります。生産区域だけでなく、入室前エリアを衛生の要として整備しましょう。

Q. 居抜き工場での衛生管理のポイントは?

A. 人・物・水・空気の動線を明確化すること。排水経路は変更が難しいため、機械配置と合わせて事前に確認が必要です。

また、近年猛暑による結露の相談が増加しています。結露はカビの発生源となり、品質に影響を及ぼすため、外壁の断熱性能や内部の断熱材にも配慮が必要です。

Q. カビ対策として有効な設備は?

A. 天井裏に除湿機や空気循環用のファン(シロッコファンなど)を設置し、結露の発生を防ぐことが有効です。また、屋根の遮熱対策も効果的です。カビが発生してしまった場合は高濃度の塩素での殺菌が有効です。

Q. 床洗浄(ドライ運用)が必要な工場(給食施設)において床傾斜はどの程度が理想?

A. 1〜2%が目安です。ドライ環境を保ちつつ、排水効率とのバランスをとることが重要です。

Q. エアコンはどのタイプが衛生的?

A. 清掃やメンテナンスがしやすいタイプを選定することが基本です。設置環境や用途に応じた検討が必要です。

Q. 建設後に問題が見つかった場合の対応は?

A. 計画時には想定できなかったトラブルが起こることもあります。その場合も踏まえて建設会社はアフターサービスの対応力と知見を重視して選ぶことをお勧めします。

Q. 工場の老朽化に伴う注意点は?

A. 老朽化に伴うインフラの更新の依頼が多いですが、図面が残っていないとインフラ更新が難しくなります。建設当時の図面の他にも改修履歴を残しておくと将来の改修がスムーズです。

次回セミナー予告

開催予定日:2025年11月28日13時15分〜

テーマ:食品微生物検査支援会社と建設会社が工場見学に行って気付く衛生管理の改善ポイント

 

次回はより実践的な改善のポイントをテーマに高橋部長をお招きしてお話を進めていく予定です。ぜひご参加ください。

セミナー動画をご覧いただけます

当日のセミナーは動画でもご視聴いただけます。以下のフォームよりダウンロードしてご覧ください。