セミナーレポート

【セミナーレポート】はじめての食品工場建設プロジェクトで気を付けること①

作成者: 鈴木 戒|2025.09.04

本記事は7/30に行われた食品工場セミナー「はじめての食品工場建設プロジェクトで気を付けること①」のセミナーレポートです。

建設プロジェクトの進め方やスケジュールの目安、費用感など、食品工場の新設を検討するうえで押さえておきたい実務的なポイントを整理しています。

これから食品工場の新設を検討されている方はぜひご覧ください。

食品工場建設プロジェクトの期間と費用感

これまでの経験を元に、費用感と期間をご紹介します。食品工場建設では、一般的な工場・倉庫建設に加えて、食品工場特有の多岐にわたる要件確認が必要です。

食品工場建設で追加される確認事項

一般的な向上・倉庫建設の確認事項に加え、食品の安全性や品質に関わる確認事項が加わります。

 

 

これらの情報がないと、図面や見積もりの作成が非常に困難になります。

食品工場建設プロジェクトの主な流れと期間

食品工場建設のプロジェクトは以下のような流れで進めます。

1. 問い合わせ~概算見積もり(約3ヶ月~12ヶ月)

  • 食品事業者様からのお問い合わせ
  • 存工場の見学や計画地の確認
  • 最も重要な「要件整理・要件定義」を実施
  • 線や要件を可視化したブロックプランの作成、図面作成
  • 算見積もりを基に設計契約

2. 設計契約~着工(約4ヶ月~6ヶ月)

  • 設計契約後もさらに詳細な打ち合わせを実施し、詳細見積もりを提出
  • 時進行で役所提出書類や図面を作成し、許認可を得る

3. 着工~竣工(約6ヶ月~)

工場の規模によって変動

食品工場建設の費用感

食品工場の費用感は非常にばらつきがあります。以下の要因によって坪単価が数十万円から数百万円の範囲で変動します。

 

  • 土地の状況:変形地、インフラ整備状況など
  • :木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造
  • 物規模:規模が大きいほど坪単価は下がる傾向
  • :冷蔵庫の内蔵、浄化槽、受水槽などの必要性
  • 体費や地盤改良費:既存建物や地盤の状況による
  • 産設備:電気や給排水、蒸気など

概算見積もりの金額

概算見積もりの金額は建設会社によってばらつきがあります。

概算見積もりには、超概算から小項目まで含めたものまで幅広くあり、打ち合わせ回数を重ねるごとに見積もり精度も向上します。

一方で情報が少ないと、建設会社は過去事例から金額に安全性を担保するため高めの概算見積もりになる場合が多いです。

 

食品工場建設プロジェクトの重要なプロセス

プロジェクトを円滑に進める上で重要なプロセスをご紹介します。

1. 社内プロジェクトチームの設立

食品工場建設を成功させるには、部署を横断した社内プロジェクトチームの設立が不可欠です。それぞれのメンバーが専門的な立場から計画に関わることで、円滑なプロジェクト進行を実現します。

社内プロジェクトチームの構成と役割

  • 経営者:プロジェクトの最高責任者であり、最終的な設備投資の決定権を持ちます。建設プロジェクトへの積極的な関与は、意思決定のスピードと方向性に大きな影響を与えます。
  • 造責任者・品質管理責任者・施設責任者:製造ラインの構成や機械配置、HACCPシステムの運用、一般衛生管理に基づく施設・設備の設計などを担います。生産性・安全性・品質に関する深い知見と実務経験が求められます。
  • 営業責任者:新工場を活用した製品PRやブランド価値の向上を担う立場です。工場見学の導線、商談室、展示コーナーなど、来訪者向けの魅力づくりを設計段階から提案することで、工場の付加価値を高めます。
  • 務・経理責任者:経理は、事業費の調達や支払いに関する実務を担い、プロジェクトの資金管理を支えます。総務は、工場完成後の登記対応や会社資料の更新、採用・人員計画への意見提供を通じて、長期的な職場づくりに貢献します。

2. 目的の明確化

プロジェクトの目的を見失うと、優先順位が決められず、進行が遅れることがあります。

事例を通して、目的を明確にすることの重要性をご説明します。

老朽化による新工場建設プロジェクト事例

ある企業では、老朽化した既存工場の建て替えをきっかけに、新工場建設プロジェクトをスタートしました。本質的な目的は「老朽化対策」ではなく「安全な食品製造環境の整備」や「取引先の衛生基準への対応」でしたが、プロジェクトを進める過程で、本来の目的とは直接関係のない施設に対する要望が肥大化。予算の超過やスケジュールの遅延といった問題が発生しました。

最終的には、プロジェクトチーム内で「そもそも何のための建設か」という目的を再確認し、「衛生的かつコンパクトな施設」を目指す方針に立ち戻ることで、軌道修正がなされました。

生産拠点集約化に伴う新工場建設プロジェクト事例

別のプロジェクトでは、生産拠点を統合することで業務効率の向上を目指して、新工場の建設を検討していました。当初の目的は「拠点集約による生産性向上」でしたが、課題として「既存工場の稼働を止めずに移転を行う必要がある」ことが判明。生産を一時的にでも停止すれば、取引先への供給に支障が出てしまうリスクがあったため、工場移転を2段階(1期工事・2期工事)で実施する方法を選択しました。

生産増加に伴う新工場建設プロジェクト事例

ある企業では、ヒット商品の需要増加に対応するため、増産体制を整えるべく新工場建設を計画しました。

目的は「増産への対応」でしたが、検討を進めるうちに用地取得コストの増大や設備投資の想定超過といった課題が顕在化。特に敷地に余裕がない場合は、土地購入費が予算全体に大きな影響を与えるケースが多くあります。

このプロジェクトでは、初期段階での大規模な投資を避けるため、「必要最小限の生産量を確保し、段階的に設備投資を進める」方針へ転換し、スモールスタートによる増産体制の構築を図りました。

 

これらのように、目的を明確にすることはプロジェクトの進行中に判断がぶれそうになったときに立ち返る指針となり、また想定外の課題が発生した際にも優先順位を判断する軸になります。

3. 生産能力の想定、決定

目的の明確化でどのような製品を作るかが決定されたら、次にどのように目的を達成するかを決定します。そのためには、生産量での売上予測と、それを実現するためのオペレーション(機械の選定、建物スペックの要件整理)が必要となります。

 

  • 必要な生産機械の選定:原料・製品の保管用冷蔵庫、冷却設備、生産機械の種類と費用、オートメーション化の検討によるランニングコストなど
  • 産に必要な建物スペック:食品製造空間に求められるスペック

 

特に、生産機械と建物スペックの確認はトラブルや予算超過の原因となります。

 

 

電気や機械などの設備で契約金額とのずれが発生しやすい傾向にあります。
機械のスペック(熱源、電気容量)によって、建物側の電気キュービクルの容量や熱源機械が決定されます。また、製造での水の使用量や排出される排水の汚染度合いによって処理層の設置、衛生管理のためにエアシャワーや空調スペックなどが決定されます。

4. 目標事業予算の想定、決定

目標予算の想定には、主に以下の3つのイニシャルコスト要素の洗い出しが重要です。

 

  • 土地の取得費:便利な土地は高価になり、プロジェクト全体の費用負担が大きくなります。
  • 築費: 建設会社に見積もりを依頼しなければ分からず、坪単価だけで進めると大きな事業費の変更が必要になるケースがあります。
  • 産機械の購入費:機械の設置面積や動線によって建築面積やスペックが大きく変動します。

 

これらイニシャルコストに加え、ランニングコストを含めたライフサイクルコストの算出が最も重要です。これらの情報は事業者だけでは集まりにくく、事業予算の確定ができずに判断に悩むことが多いです。
だからこそ、外部プロジェクトメンバーの存在が不可欠となります。

5. 外部プロジェクトメンバーの必要性

事業予算の確定や円滑なプロジェクト進行のためには、外部プロジェクトメンバーの存在が不可欠です。

 

  • 食品工場に関わる専門家:HACCP認証コンサルタント、補助金申請の中小企業診断士や行政書士など、多くの専門家が存在します。補助金申請スケジュールや認証のタイミングは建築工事期間と密接に関係するため、建設会社や機械業者との連携が重要です。
  • 設会社:プロジェクトの実現可能性の検証を可能にする予算提示を行い、コンサルタントや機械業者の取りまとめ、バリューエンジニアリングやコストダウン施策によるプロジェクトマネジメントの役割を担います。
  • 械業者:機械のスペックや予算の情報を提供し、省人化・省力化の提案により生産量やランニングコストに大きく影響します。建設会社や設計者との連携により、トラブルを早期に把握し、予算超過を防ぐことが可能です。

 

社内プロジェクトチームに、社外のコンサルタント、建設会社、機械業者を外部プロジェクトチームとして加えることで、多様な情報提供が可能となり、事業計画の「後戻り」が少なくなります

 

まとめ

食品工場建設プロジェクトを成功させる第一歩は、社内にプロジェクトチームを設立し、基本計画やコンセプトを策定することです。そのためには、建設の目的を明確にし、生産能力と予算を確定することが欠かせません。

 

また、生産能力に応じた建物や設備の整備には事業計画との整合性が求められます。その差異を解消し、現実的な計画に落とし込むためには、外部の専門チーム(機械業者や建設会社など)との連携が不可欠です。

セミナー内でいただいたご質問への回答

Q. 実際に坪単価が変動した事例について教えてください

 

A. 事業者様が当初想定していた坪単価と、実際に複数の業者(建設業者、機械業者)からの見積もりを収集した際に大幅にずれたケースがあります。

また、 建設会社と機械業者の連携がうまくいかず、見積もり時点で機械のスペックが把握できていなかったために、電気設備工事や機械設備工事(給排水、圧縮空気など)が見込みから外れ、結果的に坪単価が大きく膨らんだケースもあります。

 

対策としては、機械業者からの見積もりを早期に取得し、工場プラン作成時に導入したい機械について建設会社に情報を渡すことで、建設会社が設備工事の抜け漏れを防ぐことが可能になります。

 

Q. 事業予算の想定や採算性の検証まで澤村で対応可能でしょうか?

 

A. ご要望に応じて、機械の想定から生産量の確定までお手伝いしています。 事業費に関しては、お客様の経営状況に踏み込んだ提案は少ないものの、輸出向けHACCPの補助金申請に関連して、一部の書類作成や事業計画のお手伝いの経験はございます。

 

Q. メンバーが増えると意思決定が遅くなる印象があります。プロジェクトチームに加えるべきではない人材はいますか?

 

メンバーが増えるほど意見が多様化するため、まとめるのが困難になる傾向があります。

円滑な意思決定のためには、各セクションの責任者で、ある程度の権限を持ったメンバーに限定して会議体を構成することが望ましいです。

 

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